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投稿日時:2016年3月24日 16:00 木曜日

患者さんの「できること」を引き出すNICDの取り組み

投稿日時:2016年3月24日 16:00 木曜日

【2016/03/24】発行 暮らしと健康の月刊誌 ケア4月号 掲載記事全文

 患者さんの「できること」を引き出すNICDの取り組み

 
 <右より3階病棟科杉澤師長、佐々木副師長、金川看護師>

 札幌同交会病院(中央区)では毎年の看護部の目標にNICD(生活行動回復看護)技術の維持向上を掲げ、NICDプログラムの実践継続と個々の技術の向上に努めている。昨年10月に行われた日本ヒューマン・ナーシング研究学会第11回学術集会では3階病棟で取り組んだ「重症認知症患者に対するNICD導入の工夫点の検討」について演題発表を行った。そこで取り組みの内容とNICDとはどのようなものなのかを伺った。
 患者さんが脳卒中や心筋梗塞などのさまざまな疾患の影響で長期間安静を強いられるケースは少なくなく、救命されたものの日常生活に支障を来し、QOLの低下が避けられないこともある。また認知症が徐々に進行していくと、理解力や判断力が損なわれ、社会生活やこれまで行ってきた生活行動にも支障を来し、生活していくためにも介助が必要となる。
 NICDはさまざまな原因で意識障害や寝たきり、廃用症候群となってしまった患者さんに対して生理学的、病理学的な観点から状態を評価し、患者さんが生活行動を改善するよう支援するために開発された看護技術。

筋肉や関節を柔軟にしできることを伸ばす

 学会で同病院が発表した介入事例は2名の患者さんについて。いずれも高齢の女性で、関節の拘縮があり、日常生活は全介助の状態、胃ろうを造設しており、会話はほとんどできない状態だった。
 「さらに1人目のAさんは意思表示ができず、自発的な行動ができない状態で、もう1人のBさんは泣いたり怒ったりなど気分が不安定で、強い拒否反応を示したときには運動メニューを実践できない日もありました」。
 介入計画では、1日2回20分程度のボール運動、その後座位の訓練、車椅子の乗車の練習などを設定。また3週間目からは、スプーンや歯ブラシなどを持たせて反応を観察した。
 「学会の中で患者さんに対して行えることはある程度決められており、大きく3つあります。
 1つはボールを使った運動で、バランスボールの空気を半分ほど抜いたものを脚の下に入れ、脚の曲げ伸ばしをする方法です。
 2つ目は小さめのボールの空気を少し抜いたものを用意して、体の筋肉の上で振動させ、筋肉に刺激を与えるというものです。筋肉を振動させることで柔軟にすると共に、関節にも刺激が伝わります。
 3つ目は、端座位といって背もたれがない状態で、座ってバランスをとる訓練をするというものです」。
 関節や筋肉を柔軟にすることで動ける体の土台を作り、患者さんの可能性、自発性を引き出すよう支援する。運動プログラムは患者さんの状態に合わせて安全性などを考慮し、ボールの空気量などを微調整する。認知症がある患者さんでも、患者さん自身ができることを見極めながら、できる部分を伸ばすことを意識して改善し、さまざまな工夫を検討して導入していく。
 「プログラムを毎日同じ時間に繰り返し実施するようにしたのは工夫点の1つです。気分にムラがあって、すべてのプログラムを実施できなくてもできることだけでも行い、継続することを意識しました。反復することで患者さんの記憶などを刺激するという効果もあります。また、訓練は裸足で行い、ベッドを足裏が床に接地する高さに調節しました。これによって座るときの安定性を持たせつつ、皮膚に床の冷たさなどを直接感じてもらうことで、脳への刺激を誘発するという目的もあります」。
 歯みがきや髪をとかすなど日常的に行う動作は、自宅でしているときと同じように鏡の前まで移動して行うようにし、視覚的にも刺激を与えるよう工夫したという。このほか反射を引き出す目的でベッドに柵を設けたことも工夫点として挙げられた。これは座位の訓練の際に体が倒れそうになったとき、患者さんが自ら倒れないよう反射的につかんで体勢を立て直すことができるようにと考えられたもの。
 「改善の評価は週単位で行い、表情変化は医療機関で通常用いられているフェイススケール、関節の可動域については整形外科での評価方法を参考に角度の変化などを観察しました。日常動作は、動作一つ一つについて、歯ブラシを握れるか、口に運べるか、磨けるかなど細かく観察しました」。


 寝たきりや安静状態が長く続くことで、筋肉や関節の萎縮などさまざまな
 心身の機能が低下し廃用症候群を引き起こす

体や気分の変化を見逃さずケアを継続することが重要

 4週間の介入の結果、2人共に関節の可動域の改善がみられた。また座位を保持することが可能になり、自力で体勢を立て直すこともできるようになったという。他のスタッフからも挨拶の返事を返してくれたり、反応を示すようになったという意見が聞かれた。
 「Aさんはスプーンにゼリーをのせて口まで運ぶと口を開けてくれるようになり、Bさんは拒否反応が減ったうえ、スプーンとゼリーを渡すと自分でスプーンを持ってゼリーを食べられるようになりました。
 重症認知症患者さんの場合には大きな変化を起こすことは難しいですが、体や気分の変化を見逃さないよう注意深く観察しながら、ケアを継続することが重要です」。
 同病院では消化器専門病院という特徴から口から少しでも食べられるようにという要望も多い。すべての患者さんに導入できるわけではないが、今後も継続してNICDを導入していくという。
 「在宅で寝たきりの患者さんでも、短期間の検査入院などの際に介入して、普段の働きかけなどのアドバイスができるようになっていくのが理想です。まだまだ時間はかかると思いますが、まずは病院の中からできる限り取り組んでいきたい」という。
 最後に在宅でもできる簡単なボール運動を教えて頂いたので参考にして頂きたい。寝たきりの時間が長い人、軽度の拘縮がある人などに行うことができ、拘縮の予防にもつながる。


 仰向けに寝た状態で、膝を曲げ、足の下に空気の量を減らしたバランスボールを入れる
 上から手で押し、関節の曲げ伸ばしを行う
 注意:拘縮が強い場合は、無理に行わないようにして下さい
  ※1日1回1分程度。継続することを第一に

投稿者:3階病棟科 杉澤千香子