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投稿日時:2013年5月31日 14:00 金曜日

一次性食道運動障害と非心臓性胸痛

投稿日時:2013年5月31日 14:00 金曜日

【2013/05/31】発行 北海道医療新聞 掲載記事全文

食道平滑筋虚血がNCCPの発現に関与

はじめに

健常人の食道運動は、順行性の蠕動運動と、それに連動した下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)の運動で成り立っており、このいずれかあるいは両方に異常を認められるものが一次性食道運動障害と考えられている。

一次性食道運動障害は、嚥下障害をきたすとともに非心臓性胸痛(NCCP)を生じさせることもある。食道内圧所見により食道運動障害を検証し、NCCPの発生機序について検討を試みた。

食道内圧測定法

当院の食道内圧測定は、圧センサーとして4チャンネルの圧トランスデューサーを備えたカテーテルセンサー(GMMS消化管内圧測定システム)を用いている。

カテーテル先端のDent sleeveをLESに留置してLES圧を測定し、Dent sleeveより口側に5、10、15cmの位置に圧センサーを設け、中・下部食道内圧を測定している。

一次性食道運動障害の食道内圧所見

アカラシア

アカラシアの食道内圧所見は、一般的にLES弛緩不全に伴うLES圧の著しい上昇と食道内圧の上昇が生じ、嚥下に伴って伝播性収縮波とは異なる低振幅で持続時間の長い同期性収縮波の出現がみられる。我々が行った内圧測定でも、LES圧の著しい上昇と、水嚥下と同時に出現する低振幅の同期性収縮波が認められた(図1)。


びまん性食道痙攣(DES)

DESは、アカラシア以外の一次性食道運動障害の中では比較的頻度が高い疾患。非蠕動性の同期性収縮が特徴で、この収縮がNCCPの直接的原因になると考えられている。

食道内圧測定検査によるDESの診断基準は「中・下部食道の非蠕動性・同期性収縮であり、水嚥下に伴い2回以上反復する同期性収縮が20%以上に認められるもの」とされており、当院の食道内圧所見でも、反復する非蠕動性の同期性収縮がみられた(図2)。


Nutcracker食道

正常の伝播性収縮はみられるが、蠕動性の順行性高振幅収縮が特徴で、この強度な収縮が激烈なNCCPの直接的な原因になると考えられる。診断基準は、「順行性の一次蠕動波はみられるものの、その収縮圧が異常に高く(>180mmHg)、蠕動波に振幅の延長がみられるが、LES機能は保たれているもの」とされ、当院の食道内圧所見でも、蠕動性・順行性の高振幅収縮が生じていた(図3)。


Nonspecific esophageal motility disorders(NEMDs)

これまで示してきた疾患に当てはまらない一次性食道運動障害。中でも蠕動運動が下部食道にまで伝搬されない食道異常群をIneffective esophageal motility(IEM)という。当院が経験した、長期間にわたり嚥下困難とNCCPを自覚し、IEMと考えられた症例の食道内圧所見でも、下部食道の蠕動運動の消失が確認できた(図4)。


一次性食道運動障害とNCCP

一次性食道運動障害でみられるNCCPの原因として、以前から痙攣性収縮や持続性収縮といった食道の異常収縮運動に伴う平滑筋の虚血が指摘されている。最近では検査機器の進歩により胃食道逆流(GER)の程度が詳細に測定可能となり、NCCP発現に及ぼすGERの影響も注目されている。とくにDESやNutcracker食道では、胸痛の出現頻度が高く、発生機序の解明が進められている。

DESとNCCP

DESに特徴的とされる非蠕動性・同期性収縮は、食道平滑筋の虚血を招くことから、NCCPの発生機序で重要な役割を演じているのだろう。この同期性収縮の機序として、以前から興奮神経と抑制神経系(NO神経)の強調障害が想定されてきた。ただし、一次性食道運動障害に比較的多くみられるGERや、ストレス負荷が食道の痙攣性収縮の誘因になることも報告されており、その影響は無視出来ない。一次蠕動とLESの運動が完全に連動しておらず、LESの不完全弛緩をきたすことや、逆流した胃酸のクリアランス低下が指摘されている。

Nutcracker食道とNCCP

Nutcracker食道は、下部食道圧だけではなく、食道全体に高収縮圧が認められる症例でよりNCCPの頻度が高いという報告もあり、胸痛の発現はGERよりも収縮圧の上昇が深く関与しているのではないか。ただし、24時間pHモニタリングでみるとGERが増加をきたしている症例や、食道の知覚過敏をきたしている症例も報告されており、NCCPの発現には食道平滑筋の虚血のみならず、さらに多くの要因が加わっていることが推測される。

おわりに

食道平滑筋の虚血が胸痛発現の主因であると想定できるが、GERの関与や粘膜抵抗性あるいは粘膜感受性などといった、他の要因も影響しているのだろう。今後、検査方法の進歩とともに、これらの要因も含めたより詳細な機序が解明されていくだろう。


藻岩山麓ジャーナル第12巻に掲載

投稿者:小林壮光 院長