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投稿日時:2012年7月1日 14:00 日曜日

ストレスなどが誘因、再発も多い「胃潰瘍・十二指腸潰瘍」

投稿日時:2012年7月1日 14:00 日曜日

【2012/07/01】発行 暮らしと健康の月刊誌 ケア7月号 掲載記事全文

胃液の分泌と粘液の分泌のバランスが崩れて起こる胃潰瘍と十二指腸潰瘍。ストレスが誘因で起こることが多いほか、薬剤によって胃の粘膜の血液循環が悪くなり、粘液・粘膜の働きが低下して潰瘍が現れることもある。また、胃がんを引き起こすことで知られるピロリ菌も原因の一つと考えられている。病態や検査、治療法について札幌同交会病院(中央区)の淡川照仁副院長に聞いた。


胃液が胃壁や粘膜を障害

 胃潰瘍と十二指腸潰瘍は、食べ物を消化する胃液と、その胃液から胃壁を守るバリア機能とのバランスが崩れ、胃液が自分の胃壁や胃の粘膜を傷つけ、一部が欠損した状態をいう。潰瘍ができる部位が胃、十二指腸と異なる以外は、成因や検査、治療法が同じであるため、この二つは合わせて消化性潰瘍とも呼ばれ、日常的によくみられる頻度の高い疾患の一つである。胃潰瘍が中高年に多いのに対し、十二指腸潰瘍は比較的若い世代に多く、共に男性の方が発症率が高いとされる。
 胃の中のバランスが崩れる主な原因として、一般的によくいわれるストレスのほか、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)という薬剤やアルコール・喫煙などの影響が挙げられる。また、「胃潰瘍になった人の七―八割、十二指腸潰瘍になった人の九割以上が、胃がんなどの原因の一つとされる細菌、ヘリコバクター・ピロリを保有していることが明らかになっており、ピロリ菌が胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症に大きく関わっていると考えられています」(淡川副院長)。
 正常な状態の胃は、胃液に含まれる胃酸やタンパク分解酵素であるペプシンなど「攻撃因子」と呼ばれるものと、食物を溶かすほど強い力を持った胃酸から胃壁を守る粘液や、胃酸を中和する重炭酸、粘膜を健全に保つ血液の流れといった「防御因子」のバランスが保たれている。しかし、「ピロリ菌の保有、NSAIDs、ストレスや強いアルコールなど発症の原因が重なり合うことで、攻撃因子が強くなりすぎたり、防御因子が弱まるなど胃の中のバランスが崩れ、胃の粘膜が傷つけられてしまいます」。


主な症状は上腹部痛、吐血や下血も

 胃潰瘍、十二指腸潰瘍の主な症状は上腹部痛である。痛む場所が中心~左側で食後三十分程度続くのは胃潰瘍、中心~右側で空腹時に痛みを感じるのが十二指腸潰瘍に多くみられる症状だ。しかし例外も多く、膵炎や胆石症、胆のう炎など他の疾患の疑いもあるため注意が必要という。このほかの症状として、潰瘍ができた部位の血管が破れることで、どす黒い血を吐血したり、血が混じった黒っぽい便(タール便)が出ることもある。
 「痛みを放置すると、吐血や下血(出血性)、胃壁に穴が空く場合があり(穿孔性)、再発を繰り返すと胃が変形したり、胃の動きが悪くなって機能不全や消化不良、胃もたれ、食べ物の通りが悪くなる(狭窄)などの症状が現れます。痛みが続くようであれば悪化する前に受診することが大切です」。
 診断は、胃壁の凹凸を確認するレントゲン(エックス線撮影検査)のほか、胃カメラ(内視鏡検査)を用いて潰瘍の有無を直接観察する。内視鏡検査は予約し後日行うことが多いが、受診時に患者さんが空腹であり、検査予約が空いていれば即日検査を行うことも可能という。
 「最近では鼻から細いカメラを挿入し、患者さんの苦痛が少ない経鼻内視鏡が普及しており、口からカメラを挿入する一般的な内視鏡が苦手な方にはお勧めです。検査時間は麻酔など前処置を含めても二十分程度で済みます」。内視鏡検査で潰瘍が見つかれば、服薬を中心とした治療が開始される。


内服治療で痛みはすぐに消失

 胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプインヒビター(PPI)、H2ブロッカーという薬剤が開発されたことで、手術はほとんど行われなくなり、内服による治療が普及している。PPIまたはH2ブロッカーと共に、粘膜を保護する防御因子増強剤、プロスタグランジン製剤(PG製剤)を併用し、胃潰瘍は八週間、十二指腸潰瘍は六週間続けて服用することになる。
 「胃潰瘍、十二指腸潰瘍は薬がよく効き、痛みはすぐに治まります。しかし、痛みが消えたからといって自己判断で服用を止めると再発の原因になります。医師の指示通り、服薬を続けるよう注意してください」。
 一方、服薬では治療できず、手術が必要な例もある。潰瘍からの出血が止まらない場合は内視鏡による止血を行うほか、穿孔性では腹腔鏡を用いて胃壁の穴を閉鎖する手術が行われる。


再発を繰り返さないためにピロリ除菌を

 胃潰瘍、十二指腸潰瘍を予防するには、ストレス解消法を見つけることが大切だ。胃を刺激する香辛料、アルコール、コーヒーなども控えた方がよい。
 また、再発を繰り返さないためには、原因の一つとされるピロリ菌を除菌することが有効という。ピロリ菌検査を行うことができる施設で尿素呼気試験、血清抗体測定などを行い、陽性(ピロリ菌を保有している)であれば、PPIと抗生剤二種による三剤併用療法で除菌する。そうすることで、胃潰瘍の再発率を大幅に減少させることができ、十二指腸潰瘍であればほぼ百パーセント再発しなくなることも明らかになっている。
 除菌治療は一週間ほど服薬を続け、除菌されたことを確認するため再検査が必要。「当院でもピロリ菌感染の有無について、短時間で正確に判定可能な機器を備えています。再発を繰り返す方はもちろん、初発であっても検査・治療を受けることをお勧めしています」。



暮らしと健康の月刊誌 ケア7月号

投稿者:淡川照仁副院長