医療に関する豆知識

 

【2013/05/27】糖尿病の運動療法

リハビリテーション科 理学療法士 市川修平

糖尿病にどうして運動療法は有効?

運動療法は、食事療法、薬物療法と並び、重要な治療のひとつです。では、どのような治療効果があるのでしょうか?

1.筋肉による糖の取り込み

運動により、使った筋肉に糖が送り込まれ、急速に血糖値を下げる効果があります。

2.インスリンの効果を高める

有酸素運動は、インスリンの働きを活発にし、糖の取り込みを促進します。この効果は、運動後2~3日間続きます。

3.運動の積み重ね効果

運動を続けると筋肉の量が増加し、蓄えられる糖の量が増えます。また心肺機能も向上していきます。

4.肥満の解消

運動療法は、ダイエットにも有効です。肥満が解消されるとインスリンも働きやすくなり、脂質異常症や高血圧の改善にもつながります。

5.活動性の向上

体力の向上や、肥満の解消により、体を動かすことが楽になります。運動療法の効果も高まりますし、日常での活動の幅も広がって行きます。

6.爽快感

規則正しい運動習慣は、ストレスの解消にも効果的です。

適切な運動方法

1.適切な運動の選択

糖尿病の運動療法には、酸素を十分取り入れながら行う、有酸素運動が有効的です。

・肥満が著しい場合は、膝や足首に負担の少ない、自転車や水泳が勧められます。階段昇降の繰り返しは、負担が大きいため避けてください。
・また、有酸素運動に併せて行う、ストレッチや筋力トレーニングも糖尿病に有効とされています。

2.運動の目安

運動の開始時間:食後1~2時間:低血糖を起こしにくくなります。
運動の頻度:週3回以上:インスリンの効果アップは、運動後2~3日間続くので、最低でも週3回行うことで、効果が持続できます。
運動の持続時間:1回につき20~60分

3.運動の強さ

運動の強さの目安は、軽く息切れが起きる程度で、「気持ちよく、楽に動ける感じ」から「汗ばんでくる」くらいの運動が有効とされています。

4.ウォームアップ・クールダウン

運動を急激に始めたり、終わらせたりすると、体に大きな負担がかかり、関節や筋肉、心臓などに障害を起こしかねません。
ウォームアップ:ジョギングの場合では、運動開始時は緩やかに走り、5分くらいかけて徐々に負荷をあげていきましょう。また、ストレッチやラジオ体操を、事前に行うのも有効です。
クールダウン:運動終了時に、徐々に運動の負荷を軽くしていきましょう(ジョギングでは少しずつスピードを緩める)。

運動を続けるコツ

運動療法は長期間続けて、初めて効果があります。運動を続けるためのコツを身につけていきましょう。

例:
(1)自分に合った運動メニューを立てる
(2)体重や血糖値などの変化を記録して、効果を確認する
(3)万歩計をつける
(4)日々の生活に運動を取り入れる
例えば…
・マイカー通勤⇒バス通勤
・エレベーター⇒階段
・掃除などの家事で、体を動かしながら行う など

1型糖尿病の運動療法

1型糖尿病の場合、インスリンの分泌機能の回復が難しいため、2型糖尿病のような、目覚ましい効果は期待できません。ただし、体力の維持・向上や、ストレスの解消、また、インスリン注射の効果を高めるなど、運動療法は重要な意味を持ちます。1型糖尿病では、低血糖のリスクが高いため、運動を始める前に医師に相談して、運動開始時もアメなどを持ち、低血糖に注意しながら安全に行いましょう。
また、運動前に尿ケトン体が陽性の場合や、血糖が、運動前300mg/dL以上の場合は、運動を中止してください。

運動療法の注意点

1.運動療法は食事療法と並行して行う

食事制限を守らなければ、運動療法を行っても血糖値は下がりません。

2.事前に十分な水分補給を行う

水分不足になると、血液の粘り気が増えたり、固まりができる恐れがあります。脳や心臓などに障害を起こさないためにも、運動前に十分な水分補給(200ml程度)を行ってください。長く運動を続ける場合は、1時間ごとに水分補給を行う必要があります。
※スポーツドリンクは、急激な血糖値の上昇につながるため、水分補給には×

3.足の観察

運動では小さなけがをする場合があります。糖尿病では、傷が治りにくい、痛みに鈍いなどの症状がみられることがあります。潰瘍など重症化してしまう場合もあるので、運動前後にしっかりと足の観察をしましょう。

4.低血糖

食事量が少ない状態での運動量が多すぎるときや、インスリン治療中の場合など、低血糖が起こりかねません。最悪の場合、けいれんや意識消失(低血糖昏睡)を引き起こす危険があります。
低血糖を防止するためには、運動を食後1~2時間の間に行い、運動中の低血糖発作に備えて、アメやクッキーなど常時携帯しましょう。
!こんな症状が出たら注意
冷汗、不安感、動悸、頻脈、手指の振え、顔面蒼白など

【引用文献】

(1)糖尿病治療研究会編:糖尿病運動療法の手引き.医歯薬出版株式会社
(2)佐藤祐造:糖尿病運動療法指導マニュアル.南江堂