医療に関する豆知識

 

【2010/07/13】下痢の話

院長 小林 壮光

下痢とは、「便の水分含有量が増加して、軟便や水様便をきたすようになった状態」である。通常私たちは、1日に150~200gのソーセージ状、あるいはとぐろを巻いた便を排出するが、この便の70~80%は水分で占められている。
一般的に、便中の水分が80%以上になると軟便となって下痢をきたし、90%を越えると水様便になるとされている。
最近では、個々人の訴える下痢の程度を客観的に評価するために、ブリストル便形状スケールが用いられている。これによると、便のタイプが7段階に分類され、タイプ4が普通の便、タイプ5、6、および7が下痢便とされる。

下痢の病態別分類

(1)運動異常による下痢
小腸や大腸の運動が活発になり過ぎ、腸管内容物の水分が十分吸収されないうちに通過してしまう。
(2)吸収不良による下痢
腸管の水分吸収能が低下し、腸管内容物の水分量が増加する。
(3)分泌亢進による下痢
胃液、膵(十二指腸)液、小腸液などの分泌液が著しく増加する。

下痢の病因別分類

下痢は、その経過より急性下痢と慢性下痢に大別され、成人の場合およそ3週間以上持続するものを慢性下痢とするのが一般的である。急性下痢は、腸管感染症と投与薬剤がその原因となることが多い。
一方、慢性下痢は種々の機能的、器質的疾患に伴ってみられる。

(1)急性下痢
  1. 感染性下痢
    腸炎ビブリオ、サルモネラなどによる細菌性感染性腸炎では腐敗臭を帯びた泥状の下痢便を、ノロウイルスやロタウイルスなどによるウイルス性感染性腸炎では酸臭を帯びた水様便を特徴とする。
  2. 薬剤起因性下痢
    抗生物質に起因することが多く、出血性の下痢便をきたす急性出血性腸炎と、便中にクロストリジウム・デフィシルが検出される偽膜性腸炎が、その典型例とされている。
(2)慢性下痢
  1. 過敏性大腸症候群
    通常の検査では腸そのものに異常はないのに、腹痛や下痢・便秘といった便通異常を漫然と繰り返すような機能性疾患は「過敏性大腸症候群」と呼ばれる。過敏性大腸症候群には「下痢型」と「便秘型」,そしてその両者を繰り返す「混合型」の3タイプがある。下痢型の過敏性大腸症候群では、日常の生活活動に支障をきたすような下痢を認めることもある。本疾患は、過労、睡眠不足、ストレスなどによって誘発されることもあり、現代病のひとつといわれている。
  2. 器質的疾患に伴う下痢
    慢性下痢をきたす器質的疾患は、脂肪便をきたす吸収不良症候群、蛋白を混入する蛋白漏出性胃腸症、粘液と血液を混入する潰瘍性大腸炎、血便と大量の水様便を認める虚血性腸炎など多岐にわたる。

下痢の治療薬

一般的に、下痢の治療薬として比較的良く使用されるものに、腸管運動抑制剤と、整腸剤(乳酸菌製剤)がある。その他に腸粘膜を覆い、刺激と分泌を抑制する収縮剤なども使用される。
過敏性大腸症候群に対しては、腸内の水分を吸収して便の水分バランスをコントロールする薬剤や、男性の下痢型過敏性大腸症候群に対して投与される新しい治療薬も使用可能となった。